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水曜日、最高気温が去年の倍らしい。関西は15度前後。確かに店では、温かい飲み物を作る機会が少なかった。梅の花がどこかで咲いていた。まだ着ていない冬物がある。TVRのドアオープンボタンが凍らない。結露に困る事もない。ケツロって、変な読みだ。アイヌの国のリゾート地、キロロを思い出した。そう言えば、竹口という大学ラグビーの後輩がいたが、横に名前を書いて「ケケロ」と読まれたらしい。一学年後輩、マスター（というあだ名 所以は言えない）が教えてくれた。
このマスターというヤツはスクラムハーフ（9番のポジション 小さくすばしっこいタイプが多い）で、今は西宮で神経系の施術治療院を営んでいる。保険が利かない治療院でも、爺さん婆さんの憩いの場になっていて、その腕は拝まれるくらいのモノだ。多分それはそいつの顔が「生まれた時からお爺ちゃん」顔であることと、人を和ませるエピソードをたくさん持っているからだと思う。
小学校の頃、彼とその弟は足の速い兄弟で有名だったそうだ。そんなある日、お母さんは彼らのために、運動会の徒競走でデビューさせる「靴」を作っていたらしい。当日渡された靴は、地下足袋（じかたび）だった。あの大工さんが履いてるようなヤツだ。僕と変わらない彼の小学生時代と言えば、今から30数年前の事である。それにしても、地下足袋はない。かなり恥ずかしかったそうだが、ダントツで一位となった彼らを、人はその日から「タビオ兄弟」と呼んだ。
話は逸れるが、過日に店に来ていたHクンの息子6歳が、幼稚園の音楽会のパートで「大太鼓」に立候補したらしい。オヤジの考えとしては「何でも目立つこと、一等賞を取りに行け！」という教育方針らしいので、息子はそれを実践したのだ。僕もそれには賛成なのだが、ちょっと前に書いた（ 2/1「親でもないのに教室に」参照 ）近頃の教育というものは、少しばかり勝手が違うようである。
細かい話は割愛するが、近頃は「目立つ」という考え方よりも「みんな平等」「順位は成績だけ」という当たり障りのない方針があり、先生もイレギュラーにビクビクしている風潮がある。僕らの学校、特に小学校なんてイレギュラーだらけだった。少なくとも昭和の学校には、強烈な思い出があった。
さて、タビオ兄弟の兄は、まさしく学芸会で「大太鼓」を任された。Hクンの息子の話とは少し違って、彼は立候補したのではなく、音楽を専門とする担任に「無難な場所」として追いやられたのだった。先生は特にピアノが得意で、クラスの生徒と共に演奏会を企画した。タビオ兄はいまいちリズム感がなく、「先生が頷いたら『ドンッ！』と叩くのよ」と約束した。練習で何度も、頷いては「ドンッ」、頷いては「ドンッ」と叩くタビオは、ドキドキしながらも「足の速いタビオくん」ではなくなってゆく快感と、やはり本番の不安との間を行き来していた。
いざ幕が上がる。大きな拍手と共に、先生のピアノから全員の演奏が始まった。これは先生の発表会じゃないのか？、微かにそう思いながらタビオは、来るべく自分のパートを今か今かと緊張しながら待っていた。
先生がこちらを見て頷いた！
「ドンッ！」「ドンッ！」
第一パートは上手く叩けて、少々タビオは得意気になった。
第二パートが訪れるまでまだ時間はあったはずだ。でも練習と雰囲気が違う。先生はたかが子供の演奏会なのに、自分のピアノ演奏に対し、悦に入り込んでしまった。髪を振り乱さんばかりに頭を上下させたのだ。
タビオは、もう何が何だか分からなくなって、その数だけ大太鼓を叩き続けた。会場の体育館のざわめきで、先生は我に返り「違うのよ、違うのよ」と頭を左右に振る。しかし暴走タビオは止まらない。地下足袋を履いて走り切ったあの日のように、周りの人間はもう彼の背中しか見えなくなった。タビオは先生より悦に入り続け、まだ演奏中なのに幕が下ろされて、学芸会は台無しになった……。
子供は子供なだけに、時には残酷なものだ。笑いながら実は好きな子をいじめたり、泣きながら誰かに構ってもらおうともする。しかし、意図しない自然の成り行き（しかしイレギュラー）や陰湿でないイタズラは子供の特権だった。
現代教育の恐ろしさは、タビオ兄弟のように目立つ子供こそが悪で、事を荒立てない子供達が善とするところにある。多分イマドキの子供のままじゃ、同窓会なんてしても会話に困るのだ。先生は、みんなの顔を覚えてるのかとも思う。
同窓でもないのに、タビオの話を僕がするのもその凄さを物語ってる。
おそらくこの日記を読んだ何人かは、僕の後輩「タビオ」に会いたくなったはずだ。
僕にも会いたい同級生がいる。
そいつの話も、書ききれないほどたくさんある。
※今日のヒトコト
【タビオ兄弟の弟の話 大阪大正区で有名な大正連合（暴走族）の総長だった弟は、総勢率いて暴走を繰り返し、お決まりの悪事の一つ「壁のラクガキ」の際、 『大正「運」合』と書いた 恥ずかしい伝説を持つ総長だ】
※志賀氏的伝言板
【 発売中の「BRIO 3月号」P.108に志賀が…… 】
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※加納町 志賀とはどんなヤツ？
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