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※今日のヒトコト
【いい氷だから、カランッと音がしてお代わりのタイミングが判る】
水曜日、月見山・須磨浦の滅多に通らない路地に迷い込む。現場を探してのことだが、心細くなる道幅に皆振り返り、布引山から下りてきたイノシシを見るように、通り過ぎるのを彼らはジッと待っていた。おそらくここの住民は、焼きイモ軽トラかポン菓子のウルサイ車ほどの驚きだったんだと思う。舞い降りた神にでも見えたか、乳母車を押す婆ちゃんは手を合わせて拝んでいたかに見えた。
その帰り、マナーの悪いトレーラーに割り込みされたので、路地に左折で近道してやれと思ったが、ふと小さなパン屋を見つけて停車する。おそらくはこのパン屋、地元に愛されてはいるがその域は出ない街のパン屋である。
客はいない。袋は既製のもの。金額は手書き、もちろん驚くほど安い。僕一人でこの店を助ける事なんてできないが、そういう気にさせる罪な店である。
案の定出てきたのはお婆ちゃんで、レジ打ちにもERRORが出てしまうから、こりゃ手提げ金庫の方がマシなんだけれど、待ってる間も微笑ましく懐かしい香りのする店内で僕は、見渡せば（と言っても、5坪あるか？）サンドイッチが170円だったりする光景に、なぜか泣きそうになりながら苦もなく待っていた。
丁度その時に印刷業者からの携帯電話が鳴る。待ってた電話だから思わず取ってしまった。
提出データの写真画像は、大きくすると解像度が低いため荒くなる。メーカーに基画像を送ってもらうようにと指示が飛ぶ。やはりそうか……懸念してたけれども、仕上がりはベストでないとイケナイ……
目の前でお婆ちゃんは、600円のお釣りを持って待っていた。条件反射的にそれを右手で受け取ると、僕は店を出ていった。
電話を切ってエンジンキーを回す。またお祈りをされるほどの爆音（僕には心地いいのだが）が、小さな街に響き渡る。しかし僕はすぐにエンジンを切った。そして、また相変わらず誰もいないパン屋の店内に入る。奥から同じお婆ちゃんが出てきて、「あらっ」と不思議そうに僕を見ている。
「電話しながら、ありがとうも言わずに出ていってすみません」
「いえいえ わざわざ、ありがとうございます」
街には、携帯電話で話ながら、当然の如く店を出てゆく人々がいる。それをナンとも思わない店員もいる。それが時代のコンビニエンスな街ならば、元来ある人と人との温もりを求めて田舎にでも住もうと人は言う。
都会にだってあるのだ。電話しながら出たくない、店や人があるんだ。
探さないと見つからなくなったのは、寂しい話だと思う。
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