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■ 中毒性日記 2004
志賀のひとりごと、日記に綴ってみました。
変態小説家
志賀による、「志賀」を舞台にした空想連載小説。
志賀自賛
志賀の、「志賀」にかけた想いのあれこれ。
年中ムキューっ
志賀、昼の顔。
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“これは、ちょっとした感動の発見だ。できれば、次の日記>>>03/4/9>>>4/15日記を読んだあとに今日の日記を見て欲しい。僕は涙が出そうになったんだけど、大森さんは喜んでくれるだろうか……”

僕はいつものように爺ちゃんが創ったランプを灯してから店を開けたし、街が寒くなったくらいで何一つ変わらない店のはずだった。暗い店だから、細かいところに掃除が行き届いていない。それは分かってる。分かっているが、少なくともお客様の見えないところには気を抜いている僕がいる。無意味な緊張感を生まない意味でも、独り者の不器用さだとお客様に甘えているのかも知れない。

BOSEのアンプに、赤ワインの染みらしきモノがあった。おそらく昨日お客様が零した酒が飛んだのだろう。店の中が明るいまだ店を開ける前の時間に、その上のCDジャケットとまたその上に置いてある一輪挿しの花瓶を持ち上げる。この花瓶には、赤唐辛子の枝が入っている。生花は枯らせるのがイヤだし、それを上手く活けることもできない。だからこうやってドライに佇ませていた。それはそれで「志賀」っぽいわけだし、何よりもこの花瓶には意味があった。

「ワシが、またこの店に来るまで置いといてくれへんか」

その歯の抜けた料理人、年の頃は50歳前後のオヤジが去年、おもむろに置いていった花瓶は確かにそのオヤジの店で見たことのあるものだった。

「ワシ、この花瓶好っきやねん めっちゃ好きやった人がくれてん、コレ」

一見ロウソクのように細長く取っ手が付いた陶器には、藍色で「葉っぱ」が描いてある。それだけではナンの葉かは判らない。丁寧に「どくだみ」と書いてあるからそれはどくだみなのだろうけど、お世辞にも作家モノだとは思えずに、僕は「なぜコレを僕にくれたのか」の方が気になった。オヤジはまた歯の抜けた口の中を見せながらニッと笑い、それっきり顔を見せずに神戸の街を出ていった……。

アンプにかかった滴は拭いた。チャップリンのCDジャケットにも付いていた赤い染みも、スッと取れた。花瓶にはワインの洗礼はなかったよう思えたが、ひっくり返してみると底はかなり汚れている。これはどう考えても僕の店のモノではなく、あの店の歴史とオヤジの好きだった花瓶の側面しか拭き上げてなかった「ええかげんさ」の積もったものなのだと、僕は少し笑った。

オヤジの歯の抜けた顔を思い出しながら底を拭き出すと、何やら字が書いてある。名前と数字だった。僕は思わず、誰もいない店で声を出した。

「そうやったんやぁ」

最後の日、オヤジは言ってた。

「その人をここに連れてきたかったんや ワシが店ヤメルのを伝えてへんのに、虫の知らせみたいにめちゃくちゃ久しぶりにさっき店に来てたんやぁ でも、今日は志賀さんトコ、来れへんかってん 家族の待つ家に帰るって……」

しばらくそのまま花瓶を握ったまま、僕はアンプの傍にいた。
鳴っているはずの音楽が、なぜか聞こえなかった。

そしてもう一度、僕はいちりんざしの底に目をやった。

「そうか、そうやったんやなぁ……」


花瓶の底には、「由紀子 1982」と記してあった。



※イカリン志賀の「本日のハラタチ日記その46
【ええ話に、ハラタチなし】

加納町 志賀とはどんなヤツ?
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