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■ 変態小説家
志賀による、「志賀」を舞台にした空想連載小説。
中毒性日記 2002
志賀のひとりごと、日記に綴ってみました。
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志賀の、「志賀」にかけた想いのあれこれ。
年中ムキゥーッ
志賀、昼の顔。
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加納町人間交差点〜地図にない店の物語
Part II【プレイボーイ編】
第三話「告白」ホテルにて〜後編〜
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部屋の入り口にはカップボード、そして通路にはクローゼットがある。二つの大きめのベッド、ちょっとした応接に使えそうなソファのセット、一方の窓に向けられたそのまま仕事に使えそうなデスク、もう一方の窓からは大きな川が見える。長い距離をわざわざ歩いて、一番端まで来ただけのことはあった、二人には広い部屋である。

僕はソファに座る。彼女はベッドに横たわり、テレビからのあまり笑えないバラエティー番組がバックグラウンドに他愛もない話が続く。「何か不思議だよね、こうしてるのって」「うん、3回しか会ってないのにね」やはり、他愛もない。落ち着かない僕は、冷蔵庫からドリンクを取り出し一呼吸置く。
「シャワー先に浴びれば?」

家に、いつかの誕生日にもらったバスローブがあるが、結局それを纏うことはほとんどない。日本の生活様式には不自然に思えるし、やはりその機会はシティ・ホテルと相場は決まっている。バスローブの二人、双方のベッドに横たわり、先般から何度も口にした問いかけをする。「君の話、何かヒントをくれよ」助けを求めると彼女は「人生のこと」と返した。「もう、話してくれてもいいだろ」僕はそう言って、テレビから左のベッドにいる彼女に視線を移し、上半身を起こす。僕は万全の覚悟である。彼女はため息を付き、まっすぐ遠くを見据え、小さな声で言った。

「私、お腹に子供がいるの」

彼女はそれから、お腹の子は3ヶ月になること、その相手は海外勤務が決まりもう既に向こうへ行ったこと、そしてその人には妻がいること……を淡々と話した。彼女の妊娠を知って彼は激怒し、妻にも感づかれたゆえ中絶を、と迫られる。もうそこに彼に対する愛情は失せ、後にはこのお腹に宿った「事実」が残った。実は過去に彼女は、中絶手術を高校時代に経験している。その「事実」の尊さは解っているつもりだった。彼女は、受け止めようかと決めかねている。

「どう、やっぱり引いちゃったでしょ」彼女はそう言うと、ベッドに潜り込んだ。僕は、ドラマや映画のような背景を目の当たりにして、一瞬驚きの表情をしたのかも知れない。こんな時の男は足掻きようのない無力感を露呈する。

「男性には、母性なんて解らないわ」彼女は静かに目を閉じ、眠りに着いた。



翌朝、彼女をシャトルバスに一人乗せ、僕はあまりに寂しいブッフェスタイルの朝食を食すのを止めて、遅めのコンチネンタルを取ることにした。窓の外には眩いばかりの太陽が顔を見せている。なんだか、無力さを嘲っているような気がした。隣のテーブルにいる外国人の赤ん坊までが、こっちを見て笑っている。彼女の決断のリミットはもうそこまで来ているのに、僕はデニッシュを頬張り、3杯目のコーヒーを流し込むしか術はなかった。

一生考えても理解し得ない母性を思いながら、こうして大阪の1日は終わった。



第三話「「告白」ホテルにて〜後編〜」 完  続きはいつかまた……?


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