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■ 中毒性日記 2004
志賀のひとりごと、日記に綴ってみました。
変態小説家
志賀による、「志賀」を舞台にした空想連載小説。
志賀自賛
志賀の、「志賀」にかけた想いのあれこれ。
年中ムキューっ
志賀、昼の顔。
The Right ? Staff
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※志賀速報!【大晦日まで走ります】

日曜日、僕は午後からバレエ公演を観るために車を走らせていた。クリスマスの明けた26日、街は年の瀬の様相で車は少ない。大倉山という、神戸の中心からは少し西に行ったところにあるホールでその公演はあった。

ある日電話が入る。 「パパ?……アタシ……咲希」

その声は少し大人びてはいたけれど、忘れるはずもない。18歳になった自分の娘だとすぐに解った。3ヶ月ほど前、突然に店にやって来た娘の親権はもう僕にはない。10年前の離婚と同時に、僕には近付くことすら許されなかった。しかし僕はいつも、彼女に気付かれないように遠くから見ていた。

そうあれは今年の春。制服がカワイイと有名な神戸の高校、その卒業イベントでのこと。ナンの変哲もない演出のダンスを嫌い、前代未聞のヒップホップを披露した彼女は絶賛された(それも遠くから見ていた)。大学には行かずにずっと続けているクラッシックバレエと共に、ダンサーの道を選ぶ。それは娘から密かに来る手紙で知っていたが、バレエの公演だけは一度も行かなかった。いや、行けなかった。そこには別れた妻もいる。僕が踏み入れる場所ではなかった……。

電話の用件は、彼女の舞台の誘いだった。神戸の大きなバレエ団特別公演「くるみ割り人形」、その演目は聞いたことはあるが、クラッシックバレエなどほとんど観たことがない。「私の舞台をパパに見て欲しいの」咲希は僕の仕事の休みが日曜だと知っている。「あの日」からコンタクトを取ることも許されない親子に、彼女の電話には何か想いがあったのだろう。初めての誘いに躊躇しながら僕は、そのクリスマスプレゼントを受け取ることにした。

ほどなく郵送されてきたチケットには、気を遣って後ろの席を取ってくれたのか「1階24列33番」とある。混んでいた駐車場に車を停めてホールに着くと、ちょうど始まりのアナウンスと共にチャイムが鳴っている。急いで席を探す。前に行くほどに列の番号が上がって24列目、それはなんと舞台とフルオーケストラの真ん前、つまり最前列であった。今まさに始まらんとホールは暗転なのに、その席だけがピンスポットを受けたように、真ん中にポツンと席がある。足早に席に着くと緞帳が上がり、第一幕第一景、クリスマス・イヴが始まった。

この10年間、ずっと遠くから探し見つめていた僕にとって、娘が舞台のどこにいようとも容易く見つかる距離だった。その自信に満ちた表情。ピンッと伸びた手指、つま先。僕にココで観られていることを知っているはずなのに、それは彼女の成長と取れた。いつか来る汚らわしくも忌々しい、獣のような男に娘を嫁に奪われる気持ちとは別物の寂しさが、沸々と溢れ出てくる。子供だと思っていた咲希が、今こうして堂々と、演技を越えた悦なる表情で舞台に立っている。

ノイズの入った映写フィルムのように、僕の視界に雨が降る。華やかな演目のその影に、最前列で頬を濡らす涕涙を誰が知るのであろうか。いつまでも子供だと思っていた娘の巣立ちを感じて僕は、幕が降り幾度かのカーテンコールの間も微動だにせず忍び泣いた。安堵と悲しみの狭間で、自分より後ろの席にいる人々がいなくなるまで僕は涙した。

失うことには、相変わらず臆病でいる。しかし何かを得るのなら、失うことは厭わないとも思っている。少女が大人になったとき、僕の娘への恋心は終わりを告げた。それだけでは確かに寂しい。「くるみ割り人形」のクララは最後のシーンで、起こった様々な出来事が夢だったのかと思う。しかし胸にはお菓子の国でもらった、あの素晴らしいペンダントが残っていた。

まだ余韻を残す、ホール前の人混みを掻き分けて僕は歩き出す。外は身を切るような寒さを増して、ようやく冬が感じられる季節となった。

寒いが温かい。僕の心の中に、記憶のペンダントがずっとある。


※この物語はフィクションであり、登場する人物は実在するんだけど、短編小説風にしたかっただけである。これは、いつか僕の娘だと偽った(>>>9/12日記参照)、咲希ちゃん舞台公演の話だ。オホホ。


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