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相変わらずのどんよりとした日中の天候、火曜日である。家の駐車場で暖機運転をしていると、清掃のおじさんが「パンクしとるで」と教えてくれた。そして店の帰りにはカミナリを伴う大雨。ノロノロ走行を余儀なくされた。うーん、明るい話題はないものか。そんな時、ふと思い出した話がある。
断っておくが今から書く話はかなりグー(死語)である。大概、こう書くとくだらなかったりオヤジギャグやとか、ネタでしょ、と言われそうなものだが実話だ。余談だが、考えてみると笑いを仕事にしている「漫才師」や「落語家」なんていう職種の人達は、最初から「笑わせること」が仕事なわけだから、それは相当大変なことだろうな。あっ、それが得意やからその仕事やってるのか。でも、そうでもないよ。オモシロイ人ばっかりではないし、歌手だってみんな上手いわけじゃない。その仕事に「向いてない」のに選んでいる人もいるし。
話が逸れた。僕は携帯電話に出るときには「はい、志賀です」と取るのだけれど、店では「はい、志賀でございます」と言うことにしている。店とその他の切り替えの意識でそうしているが、いつか聞いた「丁寧語」の話が僕の教訓となって、いつもこれだけはしっかり言うようにしている……。
僕がまだ30歳になる前、当時神戸ハーバーランドで担当(店舗オペレーション)していた店のアルバイトに、堀田と言う女子大生がいた。彼女は「ええとこの」お嬢さんで、家の電話には家族が揃っていても必ずお母様(その言い方が似合う)が出るようにしている。「堀田でございます」……まるで、朝丘雪路のような(なんちゅう例えや)、決して「サザエでございまぁ〜す!」ではない、その一言だけで「上品」漂う声で。お父様は、和室にドッカと腰を下ろし家長の威厳を保つらしい。実際僕が電話した際にも、お母様の声で「堀田でございます」と出たものだから、こちらが何だか恐縮してしまった記憶がある。
ある日彼女の粋な計らいか、久しぶりの夫婦水入らずの旅行中、家の電話が鳴る。女子大生になったとは言え、一度も家の電話に出ることがなかった彼女。いつもの母上のように、気品溢れる流れるような美しい声で、「堀田でございます」と言いたかった。が、あろうことか彼女は、極度の緊張とうまく言おう、うまく言おうと思うがあまりに……
「堀田でござる」と言った。
※志賀私的伝言板
【電話の相手は「かたじけない」と返した…はウソである】
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