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■ 中毒性日記 2001
志賀のひとりごと、日記に綴ってみました。
変態小説家
志賀による、「志賀」を舞台にした空想連載小説。
志賀自賛
志賀の、「志賀」にかけた想いのあれこれ。
年中ムキューっ
志賀、昼の顔。
The Right ? Staff
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昨日5月31日、店には適度に人がいてそれぞれいい話が出来た様に思う。世の中が不景気なのは重々承知だが、忙しさより、こうやって「いい話が出来た」と振り返りながら一日が終わる、これは何物にも代え難い財産だ。後は、車で帰って寝るだけ、そのはずだった…。

家の駐車場に着いたのは午前4時頃。いつもは家に帰るとこの時間から仕事をしたり、ビデオを観たり。どうも今日は眠い、早く眠るつもりで居た。エレベーターを待つ間、ふと足元を見ると「ゴキブリ?」と一瞬思う。そこには「ヒラタクワガタ」がいた。京都の一部では「ベタ(平べったいから)」と言っていたやつだ。幼少当時、オオクワガタはもちろんノコギリクワガタなどはなかなかお目にかかれないもので、しかしこの「ベタ」に関しては山に行けば必ず一杯いた。しかし、こんなコンクリートのフロアに今時クワガタなんて「ベタ」でも珍しいんじゃないか。思わず持って帰ることにする。

エレベーターの中で、僕の手のひらにいる「ベタくん」は怒っている。頭を持ち上げて、角を思いっきり開いて威嚇しているのだ。何十年かぶりでその小さいながらも、敵と思って怒りをあらわにする彼に、懐かしさがこみ上げる。家のドアの前に着く。「どこかに監禁される!」そう思ったのか彼は、手のひらから3度も飛び降りた(正確には、右手に持っていたので荷物もあり、鍵も開けねばならなかったので、僕が落っことしたのだが)。

家に入る。当然虫籠など無く、かといって水槽も有るはずがない。昔、縁日で買った「みどり亀」が水槽に入れたのにも関わらず、なぜか翌日いなくなっていたのを思い出した(臭いがするので母が逃がしたらしい)が、まぁ、逃げたければ逃げればよい。皿に彼を置くと、まだ彼はご立腹の様子で威嚇している。砂糖水を染みこませた脱脂綿を入れようと、救急箱の中から綿を取り出す。何年前のものか判らないそれは、ほとんどの人が他聞に漏れず苦手な「正 露丸」の臭いで一杯だ。果たして彼は受け入れてくれるのだろうか?当然、土も木もない皿なので彼はとまどい、ちょこまか動いている。気持ちだけでも、と砂糖水脱脂綿にジュースもかけて僕は近づけた。彼は再び攻撃態勢で僕を睨む。綿を置いても、まだ頭をそこに埋めようとはしない。「正露丸」のせいか?そのままバルコニーに出して風呂に入ることにした。

テレビで昨日のニュースをやっている。時刻は午前5時半。寝ようと思ったが、彼のその後が気になる。もし、甘い汁を吸っていないのであれば外に放してやろう。それが自然だ。ベランダに静かに出て様子をうかがうと、彼はびくともせずに一心不乱に、正露丸臭の綿を抱きしめていた。お口に合ったのだ。太陽が出たら眩しいかと、新聞の屋根を付けて中に入った。それから眠れずにPCの前であれこれやっていたのだが、この日記も今、書き終えようとしている。朝の7時半だ。今から、またバルコニーに行ってみようと思う。あれだけ僕を威嚇していた彼が、今度はなついてくれるかも知れない…。

昔あった観葉植物ベンジャミンが、枯れたままバルコニーに置きっぱなしになっているのを思い出したので、彼への手みやげに折る。今日は凄くいい天気だ。新聞の屋根はさぞかし気持ちのいいものであろう。屋根を取ってみる。「なんじゃ、こいつ。まだ吸っとるがな!」思わず突っ込んでしまったが、しかしなんといじらしいものか。思わずお尻を触って邪魔をしたくなった。彼は感謝の眼差しで……んなわけもなく、またもや角をおっ広げて「何すんねん!!」と言わんばかりに頭を持ち上げた。そしてまた、狂おしいほどに女性的に見える潤った綿を抱きしめた。羨ましい。そう言えば、人になつくクワガタなんて聞いたことがないや…。彼がいつこの家を出ていくか判らないが、それまでにせめて餌付けだけでもしよう。

僕の家に家族が増えた。


志賀死語17
『源氏』:これは、京都それも山科のごく一部だと思うが「クワガタ」の別呼称だった。「カブト(兜)ムシ」に対してか? あぁ「ゲンジ」採りに行きたい…。
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